飼い犬に手を噛まれまして
「実は、家賃が払えなくて……俺まだ大学生なんですけど……」
彼は私の部屋のドアを勝手に全開にした。外の湿った空気に眉をしかめる。
さっきより酷い雨が降っている。
「見てください。荷物全部放り出されて、鍵まで替えられちゃったんです」
彼が広告の裏に赤いペンで書かれた『出ていけ! BY大家』という強烈な通知を私に見せた。
「今、バイトが終わって帰ってきたところなんですけど、この雨じゃ野宿できないし……」
今にもこぼれ落ちそうなウルウル瞳にやられちゃいそうになる。なんだか、可愛い。
「わかった。わかったから、泣かないで」
「俺、行くところないんです! 田舎から大学行くために上京してきて、このマンションは元カノとシェアしてたんですけど、ふられて、彼女は部屋をでちゃって……一人じゃ家賃も払えなくて……」