飼い犬に手を噛まれまして
寝ているワンコをもう見ないことに決めて、食べ終えた食器を片付けて、次は洗濯物を干すことにした。
洗った制服を皺を伸ばしてハンガーにかける。この制服、可愛いのに自宅で手洗いできるところがすごくいい。
洗濯カゴが空になると、ベランダで伸びをした。目の前を走る環状八号線、そこに停車したレクサスの中で私は郡司先輩とキスをした。
嘘みたい。あ、嘘なのか。
あんなキス偽物だ。先輩は色んな女の子に、ああいうことしているんだ。そういう人なんだ。
洗濯カゴを持って部屋に入ると、ワンコが「うーん……」と眠そうに目をこすっていた。
「あ、ごめんね。起こしちゃっ……うわぁ」
「大丈夫だよ、深陽(みはる)……」
ワンコに腕を引かれて、私は彼の腕の中にいた。みはる、って元カノさんの名前かなぁ? 私と勘違いしてるよね?
「ちょっと……坂元くん!」
彼の腕から抜け出そうともがくと、その締め付けはますます強くなる。
「逃げないでよ……俺、無理……もうこれ以上待てない……」