飼い犬に手を噛まれまして

「ごめん……洗濯物干して部屋に入って、坂元くんにつまずいたみたい」


「えぇっ? スミマセン! 邪魔でしたか? 茅野さん、お怪我は?」

「ううん、大丈夫。坂元くんこそ怪我してない?」

 言えるわけがない。彼はいい人だもん。そりゃ、そういう時は多少強引でエロな一面はあるかもしれないけど。寝起きに気をつけよう。


「丈夫さだけが、取り柄ですから」

 彼は反省したようにシュンとうなだれて正座した。やっぱり、可愛い男の子だ。


「でも……今すごくいい夢みてた気がします」

「あはは、いい夢ってなんだろうね。あ、ごはん食べる? サラダとヨーグルトならあるよ」


 ワンコは嬉しそうな顔して「はい、いただきます!」なんて言うから、ますますキスのことは責められない。とにかく、それ以上のことは何もなかったんだから、よしとしよう。

 簡単な朝食を嬉しそうに「家で朝食なんて久しぶりです!」と平らげたワンコ。

 それから洗濯機の使い方を教えてあげたり、お風呂の取り決めをしたり、共同スペースのルールを決めた。


「邪魔だと感じたらすぐに言ってくださいね。俺はここを追い出されると行くあてがないし、従わなきゃいけない身ですから」

「私も平日はほとんど家にいないし、その間は好きに使っていいからね」

「はい! ありがとうございます。掃除はちゃんとします。掃除機はどこですか?」

「掃除機は、ここだよ」

「はい、じゃあさっそく食器洗って掃除しますから、紅巴さんはごゆっくりなさってください」

「え……あはは」


 ありがたいけど、落ち着かないかもしれない。
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