飼い犬に手を噛まれまして
「と、朋菜はなれて……タカシさんが悲しむよ!」
「でも俺のストライクゾーンには入ってます」
ワンコが朋菜の耳元で囁く。やばい、目が据わってる。
「ちょっと! ワンコ、だめだめ! 朋菜も飲み過ぎだよ!」
朋菜を揺すり起こす。だけど、朋菜にはワンコの甘い囁きが届いていなかったようだ。「うーん」と唸り声をあげた朋菜は、すでに夢の中。
「朋菜、寝ちゃったの? 帰らないと、タカシさん心配しちゃうよ」
揺らしてみても、頭ががくがくとしただけで、ぐったりとした朋菜は全然起きそうにない。
「もう、終電ありませんよ。茅野さん」
ワンコは、プシュッといい音をさせて最後の缶ビールを開けた。
「ワンコ飲み過ぎだって、もう飲んじゃだめ! ああ、もう。タカシさんに電話して朋菜泊めるしかないか……ほら、朋菜、ここで寝ないでよ。ベッドまで歩いてぇー」
ワンコはクスクス笑いながら、「いつもそんな役目ばかりしてきたんですか?」と首を傾げた。
「うるさい」