飼い犬に手を噛まれまして



 ワンコは、ますます私を強く抱きしめた。腕の中にすっぽりとおさまった私。彼の温もりは、甘すぎる。


「可愛いですよ……紅巴さんは」


 こんなこと年下の男の子に言わせるなんて、虚しいだけだ。


「こんな素敵な人に彼氏がいないなんて、考えられないな」

「もう、いいから……」


 そっと瞳を閉じた。睡魔に襲ってほしい。彼の腕の中が、居心地が良すぎるから、このまま何も考えずに眠ってしまいたい。


「俺は、紅巴さんが好きですよ……見ず知らずの俺を助けてくれて、こんなによくしてくれてる。好きです……」

 消えてしまいそうな小さな声。すぐにワンコの寝息が聞こえてくる。

 酔ってるからだ……大好きは、感謝の意味。本当に好きなのは私じゃない。自分に言い聞かせて、私も寝ることにした。




 私も本気で誰かに愛されたい。
 そう、強く思った。


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