飼い犬に手を噛まれまして


『また、俺に電話してもらいたいわけ?』


「はい……でも迷惑でしょうし、そんなこと言うと先輩に迷惑だろうし。電話は、いいです。いいんです! あ、すみません。私、何言ってるんだか」


『アハハハ、慌てすぎ。気を使わないでいいよ。素の茅野も、いつもそんな感じなのかな。楽しみだ。はやく帰りたくなった』


「はやく帰りたい?」

『ああ、自分でも驚いてる。茅野の顔を見たい』

「え……」

『いや、いい。忘れて』


 耳元から「郡司せんぱーい」と呼ぶ和香の声が聞こえてきた。


『茅野、さっきの件よろしくな』

「あ、は、はい」

『じゃあな、また』

「……え、郡司せんぱ……っ」



 途切れた携帯電話を呆然の握りしめる。萌子先輩情報だと、今シカゴでは世界中の広告デザインを集めたイベントをやっているらしい。

 具体的にどんなことを先輩がしているのかは知らないけど、社員の中で選ばれて参加しているんだ。いくらうちの会社でエリートだともてはやされてる先輩でも、苦労してるのかなぁ? だから、変なこと口走っちゃったのかなぁ?



 私に会いたいなんて……あの郡司先輩の口から発せられたなんて……



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