飼い犬に手を噛まれまして

 企画デザイン課の人たちは、やれ残業だ徹夜だと騒ぐ中、定時であがれるという特典までついてくる。

 お給料も、一人で暮らしていて過不足なく貯金もできている。

 たまには海外旅行にだって行けるくらい稼げるんだもん。最近は、朋菜が結婚しちゃって行く相手がいないけどね……



 この生ぬるい実態に私が満足しているように、萌子先輩も満足しているんだと思う。それに庶務の仕事をさせたら、萌子先輩は天下一品だ。





 萌子先輩と更衣室で制服に着替えた。アイロンをかけたシャツにチェックのリボンを結ぶ。

 タイトなスカートを履いて、ロッカー越しに経理課の濱中さんとお喋りをする。


「新しい出会いが面倒くさいんだよね。今いる知り合いの中に、実は運命の人がいるかもって考えたことない?」


 ブレザーのボタンをとめながら、首をひねった。すぐに郡司先輩の顔が浮かんだ。

 そうならいいなぁ、っていう淡い期待だけで、本気で郡司先輩が運命の人だと思っているわけじゃない。


「ううん、いないよ。考えられない」


「元カレとか、中学生の時に告白された男とか、いっぱいいたのに、どこ行っちゃったのよ! って思うことない? この年になると、いい男には皆彼女か奥さんがいて、フリーなのは訳あり物件なんだよねー」


 濱中さんは盛大なため息をついた。萌子先輩が「うんうん」と頷く。



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