飼い犬に手を噛まれまして
社会人としての責任
─────報告会は、無事に終了した。
郡司先輩の物怖じしない強気な発言は、とても堂々として爽快感すら与える。
社内でも中堅の期待株として名高い郡司先輩は、今回の出張でより上司を納得させる結果を出した。
質問には無駄がなく的確な答えを出し、答えをはぐらかすことも一度もなかった。
たった、五日間でこれほどまでの知識を吸収してくるなんて凄い。
だけど、和香が来なかった。
社長や常勤理事も出席したこの大切な報告会に、和香は姿を現さなかったんだ。
「ほんと、信じられない。有り得ないよねー。あの女、企画デザイン課では“姫”って呼ばれてたらしいじゃない。
調子乗ってるんじゃないの? 部長とデキてるって噂もあったけど、流石に今回も無断欠席はヤバいわ」
ロッカーで帰り支度をしながら萌子先輩がそう言った。
「ヤバいですよ。郡司くんは、『体調を崩してしまい……』なんて庇ってたけど、私あの子見ましたよ」
濱中さんには悪気はないんだと思うけど、私は気分が重い。
「でしょ? 何があったか知らないけど、あの子の出張費だけで数十万を会社が負担してるわけだから、報告会に出れませんでした。は、通用しない」
着替えをし終えてロッカーを閉じる。
「お先に失礼しまーす……」
「あれ、茅野いたんだ。お疲れ様ー」