華〜ハナ〜Ⅲ【完結】





暁斗は侑希を抱えたまま座り込んだ楓を横目にベッドに近づく。


そのまま蓮士を押しのけて、ベッドに侑希を寝かせた。



蓮士のことは申し訳程度に敷かれたラグの上に寝かせた。一応、雑には扱わずに。




「…なんなんだ、暁斗さん。」



暁斗の行動を見ていれば、自分の味方でないことくらい楓は分かっていた。


だが、敵かは分からない。



侑希を奪われた時に感じたのは間違いなく殺気だったが、それ以降は敵意を感じない。


それに、彼は陽斗も尊敬する桜華の創設者だ。


陽斗の人を見る目は確かだし、楓は陽斗を心から尊敬している。


彼が信じているものは自分が信じるにも値すると思っている。





「……僕がお前に話すことは何もない。何も知らずに侑希に惹かれて、侑希を疑いもしない。なんて滑稽なんだろうね。お前の唯一の大切だったものを奪ったのは他ならぬ彼女なのに。」





暁斗が落とした言葉が、楓の胸に突き刺さった。




「…エリカの、こと?」

「それ以外に何がある。」





楓の目の前は真っ暗になった。




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