華〜ハナ〜Ⅲ【完結】
少女の家での公用語は主に英語。
日本語は“授業”の一環として学んだ。
「ごめんなさい」は何よりも早く覚え、どの単語よりも頻繁に言う言葉だったが。
家庭教師兼、全般の教育係りとして雇われたのは上野という女性だった。
言葉はもちろん、生活するうえでの所作はすべてこの上野が教え込んでいた。
「お嬢様、」
冷たくて、感情のこもっていない上野の声。
女の子はこの声が苦手だった。
日本語だろうと英語だろうと感情がないのは変わらない。
母親の言葉には少なくとも感情はこもっている。
それが愛じゃなくても、それがただの嫌悪や憎しみだとしても。
無感情よりは良かった。
――――課された課題をこなし、母親の暴言に耐え、2人の女以外の人間とは触れ合わない。
それだけが、少女の幼少期だった。