華〜ハナ〜Ⅲ【完結】
第十章
深く深く、終わりを知らない水の底に沈んでいくような気がした。
体は動かないし、目も開けられない。
今、自分が息をしているのかどうかさえわからなかった。
ただただ真っ暗で、何も見えないし何も聞こえなかった。
どれだけそうして漂っていただろう。
「いつまでそうしてるの?」
幼い子供特有の高い声が頭に直接響いてきた。
「……だれ?」
認識したのは、真っ白な子供だった。
膝裏まで届きそうな長くて白い髪
血管が透けそうなほど真っ白な肌
瞳は血の色を写したかのような真っ赤。
誰?私は、この子供を、知っている?
「…いつまでもここにいても良いけれど、本当にそれでいいの?」
なんの話?
「帰る場所が、あるはずよ。」
声も姿も子供なのに、随分と大人びた話し方をする。
ハキハキと伝えてくる。
「わたしのことを待っている人がいるのよ。」
だから、早く帰りなさい、と言われた。
「あなたのことを待っているのに、私が帰るの?」
この子を待っている人のところへは、この子が帰るべきだろう。