華〜ハナ〜Ⅲ【完結】
第十章












深く深く、終わりを知らない水の底に沈んでいくような気がした。





体は動かないし、目も開けられない。







今、自分が息をしているのかどうかさえわからなかった。






ただただ真っ暗で、何も見えないし何も聞こえなかった。











どれだけそうして漂っていただろう。






「いつまでそうしてるの?」













幼い子供特有の高い声が頭に直接響いてきた。







「……だれ?」










認識したのは、真っ白な子供だった。













膝裏まで届きそうな長くて白い髪


血管が透けそうなほど真っ白な肌


瞳は血の色を写したかのような真っ赤。








誰?私は、この子供を、知っている?
















「…いつまでもここにいても良いけれど、本当にそれでいいの?」







なんの話?

















「帰る場所が、あるはずよ。」














声も姿も子供なのに、随分と大人びた話し方をする。





ハキハキと伝えてくる。















「わたしのことを待っている人がいるのよ。」







だから、早く帰りなさい、と言われた。











「あなたのことを待っているのに、私が帰るの?」









この子を待っている人のところへは、この子が帰るべきだろう。











< 229 / 278 >

この作品をシェア

pagetop