華〜ハナ〜Ⅲ【完結】
嘉side
重苦しい、誰も声を発さない部屋。
この状態が続いて3日が経つ。
状況は、連絡を受けて急いで来たあの日から変わってない。
侑希ちゃんが眠るベッドから動こうとしない暁斗さんの威圧的な存在感のおかげで、その側にずっと近づけなかった。
…だから、蓮も結都も床に寝かせた、そのままだ。
僕と楓はあれから毎日ここに来ていたけれど、李玖は3人が倒れたあの日ぶりにここに入ってきた。
暁斗さんのことが怖くてたまらない、と独り言のように零していたのをこの間、聞いた。
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小さな声をあげて目を覚ました侑希ちゃんの視線は、焦点の定まらないそれで空を見つめていた。
……かと思ったらその視界を全て塞ぐように暁斗さんが抱きしめる。
「一体、なんなんですか……」
思わず溢れた言葉はそれで。
生死の境目をさまよっていた恋人に対するような、暁斗さんの反応。
訳がわからない光景に、侑希ちゃんが目覚めたことを安心する暇もなくまた頭の中が混乱した。
「……っ!」
「……白く、なってる…!」
侑希ちゃんの長い髪が、毛先から、色を失っていくのに気付いた。
じわじわと、でも確実に“白”になっていっていた。
何が起きている?
こんなの、現実にあるわけがない…!
「…素敵だ。やっぱり、戻ってきたんだ…。」
しん、と静まり返っている部屋に暁斗さんの小さな声が響く。
どういうことだ。
戻ってきた?何が?
「全部、思い出したの?」
「…ええ。思い出したわ。」
「…僕は先に、戻るとするよ。あとはお前に任せる。」
「……すぐに戻るわ。」
二人だけの会話が行われる。
その話の意図は僕たちにはちっともわからない。
混乱して動けない僕と楓の間を通って、風のように軽やかに暁斗さんが部屋を出て行った。
僕らはそれに反応することもできず、彼を止めることもできず、ただただ立ち尽くすしかなかった。
「…さて。」
鈴のような、聞きなれたようで初めて聞くような、心がざわつく声が落ちる。
「…なんだか久しぶりね、3人とも。」
部屋の隅にいた李玖にも視線を投げ、眠っている蓮と結都以外の僕ら3人にかけられた声だった。
「……誰?」
困惑を隠さない楓の声が響いた。…今、僕らの目の前にいるのは一体誰だろう。
真っ白な髪に、不健康なほど青白い肌。薄く歪む真っ赤な唇に、白い睫毛に縁取られた真っ赤な瞳……。
先ほどまでそこには侑希ちゃんが確かに眠っていたはずなのに、目の前にいるのは見知らぬ女の子のようだった。