華〜ハナ〜Ⅲ【完結】
「…少しだけ、昔話をするわね。彼らが目を覚ましてからでも良かったんだけれど。私も早くここを出たいの。」
体が動くようになったのか、彼女もまた、風のように軽やかにベッドから降りた。
「……私は生まれた時、この姿だった。白と赤の、子供だった。」
彼女は床に寝かされていた蓮の元へ行く。
「っ、蓮!」
「…何もしないわ。ベッドへ運ぶの。」
彼女はその言葉通り、蓮を軽々と持ち上げてベッドへと寝かせた。
「……生まれた家は大金持ちの家だったけれど、父親は家に帰って来ず、この姿のせいか、母親からは虐待を受けていたわ。教育係という名目の女にも、虐待のような扱いを受けていた。」
彼女は、今度は結都をベッドへと運んだ。
ベッドに大きい二人が寝かされて狭そうだけど、床よりは良いだろう。
「……私は不幸を呼び寄せるらしいの。本当かどうかわからないけれど、私の周囲はみな不幸だった。」
母親も、父親も、わたしのせいで狂ったのよ。と、続けた。
「……父親にはもう一つ家庭があった。不倫なんて、珍しい話じゃないわ。そしてそちらの家庭でも子供が生まれていた。私と、同じ年の同じ日、同じ時間にね。」
同時に、違う場所で生まれた異母兄弟よ。
抑揚のない彼女の話を、俺たちはただ黙って聞くことしかできなかった。
さっきからもう、声は出ない。
「……それが、結都だった。」
…………え、
「…………え?」
言葉を落としたのは嘉だ。
「…わたしたち、似ていると思わない?雰囲気や…そうね、例えば鼻の形とか?」
…そんな風に、思ったことはなかった。
二人とも類を見ないほどの美形だってことはわかるけれど。
「……だけど、結都は私とは違った。幸せを呼び込む体質だったの。だから、結都の家にいる時の父親は優しく、いい父親だった。結都は父のことも母のことも本当に愛していた。」
俺たちの知らない、結都の幼少期。
結都自身も話したがらないし、いつも忘れたと言っていた。
それを、彼女がこんなによく知っているなんて。