華〜ハナ〜Ⅲ【完結】









「……それから数年後。暁斗は両親を殺したわ。両親のことを許せなかったんでしょうね。それに、自分のような不幸な子供を産んだ家系の人間全てが憎かった。だから、数少なかった一族の人間ほとんどを殺したわ。



……愛していたはずの、弟さえも、手にかけようとした。」







「蓮も……?!…え、でも………」







「そうよ!できなかった!蓮士を殺すことができなかったのよ!あの、幸福体質のせい…!」




滅多に変わらなかったその表情が、憎しみを隠さない激しいものに変わる。


憎いのと、悲しいのと、苦しいのをごちゃまぜにしたようだと思った。






「仕方なく、暁斗は蓮士の記憶を消すことで全てを終わらせたわ…。わたしたちは、さっきまでその記憶を見ていた。わたしたち三人の幼少期の記憶は、どうしてだか、共有されてしまったみたいね。」




「……3人とも、で…」





「蓮士の過去はそれよ。あとは私たちの話。私は同じ不幸体質の暁斗にどうしようもなく惹かれた。彼についていくことを幼いながらに決心したわ。

そして、私も両親を殺した。…それが、月華の生まれたきっかけよ。私が最初に殺した人間は両親であり、自分の意志で手を汚したのもその2人だけよ。」


月華…?それ、って……















「…月華の名前くらい、知っているでしょう。MOONの殺人鬼、月姫、天使、様々な名前で呼ばれるわ。……それが、私。血で血を洗い、何百人もの命を奪って生きているのが、私よ。」



















平然と話すその姿に、どうしようもない恐怖が湧き上がってきた。


…月華、世界最高峰の殺し屋。

誰にも姿は知られていない。

男だとも、女だとも、若いとも年寄りだともいわれている、誰もが知っているのに、誰も知らない、殺戮人形。





そんな人が目の前にいることが、どうしようもなく怖かった。










「……それからしばらく私の生活は地獄だった。人を殺し、殺されかけるギリギリの生活。心は死に、この容姿のせいで人形と呼ばれるようになったわ。

私にあったのは、彼と共に生きていくという事実だけ。彼さえいればあとはどうでも良かった。

…私たちが2人で生きていくためには、人を殺すしかなかった。普通の生活はできない。2人とも両親を手にかけた化物よ。それに、不幸体質には拍車がかかった。

ただ息をしているだけで犯罪に巻き込まれ、警察に追われ、賞金をかけられ、その金欲しさに命を狙われた。

…だから、殺すしかなかったの。

そうするうちに暁斗を育てた暗殺者のアジトを乗っ取り、私たちは最高の隠れ蓑を手に入れた。どうせ殺さなければならないなら、依頼をもらって金をもらうようにした。そうして、命を狙われながらも、それまでよりも安定した生活を送れるようにした。


……だけど、私の心は悲鳴を上げた。善と悪の判断もつかなず、心は死んだと思っていたのに。私は、自ら望んだわ。

“記憶を消して。両親のことも、結都のことも、蓮士のことも、全て忘れたい。”とね。

そうして、あの人に記憶を消してもらったの。だけど彼を一目見た瞬間にまた離れられなくなったわ。それだけで十分だった。人を殺めることにも抵抗は無くなったし、それまでよりも強さを求めた。私は、月華として、完成した。」





淡々と話し続けた彼女は、そこでやっと話をやめた。





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