華〜ハナ〜Ⅲ【完結】
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よく、3人で集まった広間。
真っ赤な絨毯に、木を黒く塗った黒い壁。
ソファはチャコールグレーのものが揃えておいてあった。
ガラステーブルにはいつもは何も置いてなくて、ごくたまに禍后が灰皿を持ってきて葉巻を吸っていた。
「月華、また怪我をしているじゃないか。」
色々と無茶の利く体と、自分の安全に関心を持たなかった私の体は傷だらけだった。
そんな私を心配したのが、乃亞と禍后だった。
「……すぐに治る。」
「そんなことを言って。腹の傷、見せてみな。」
私の脇腹にできた傷は、3週間も前についたものだった。
「……っ、悪化してるじゃないか!」
傷が塞がってもすぐに暴れて、開く。
そんなことを繰り返していたら、傷は膿んで目も当てられないものになっていた。
「痛くないのか?!?!それ?!」
乃亞の悲痛な声に反応した禍后もそれを見る。
「…痛み?感じない。それに、もうすぐ再生剤が完成する。それができれば傷は治るわ。」
「……再生剤が出来上がるといい続けて半年経つぞ。何人も実験台になって死んでる。お前、死ぬつもりか?」
「……マスターが望むのなら。」
マスターのためだけに生き、マスターが望むように生きたい。
それはいつも変わらぬ私の願望だ。
「……ったく。禍后、治療する。道具取ってこい。」
「ああ…。」
乃亞は、自身が怪我をすることはほとんどない。
だけれど、私や禍后があまりにも怪我をするから治療法を学んだらしい。
「……月華、お前マスターから怪我をするなと言われてるんじゃなかったのか?」
「…言われてる。だけど、そんなの無理よ。」
「お前が本気になれば怪我なんてしないだろう!」
「…私が本気になれば依頼通りには殺せない。跡形も残せなくなるわ。」
私の元へくる依頼は、被害者がよほど恨まれているのか殺し方まで指定してくるものがある。
ぐちゃぐちゃにして欲しい、
四肢は切り離して欲しい、
失血死させてほしい、
刻んだ死体はその家族へ送れ、
意識はあるままに、苦しませて殺して欲しい…
…最初は、悪趣味だと思っていた。
けれどそのうちになんとも思わなくなった。
私がやりたいように、自分の身を
庇いながら相手を殺せば、そんな依頼を遂行することなく全て一瞬で息の根を止めてしまう。
そのことを、乃亞もよく知っていた。
「…っ、」
「乃亞は、詐欺が専門でしょう。私に構わないで。」
じゅくじゅくになった膿を消毒する間、私たちはだれも口を利かなかった。
「……終わりだ。他に、酷いところはないか。」
「ないわ。」
「……再生剤、早く出来ると良いな。」
ちらりと乃亞を一瞥して、私は定位置となっている部屋の、窓辺に座った。