華〜ハナ〜Ⅲ【完結】
しばらくすると乃亞が退室し、私と禍后だけになった。
すると、禍后が椅子を引っ張って側に座った。
「…乃亞は、心配しているだけなんだ。許してくれて、ありがとうな。」
「…構わない。」
「……痛みってのはな、お前の体が、お前に気づいて欲しくて出すサインなんだよ。」
は?急に、なんの話をし出すのだろうか。
「痛みがなかったら、傷にも気づかないだろう?その腹の傷も、放っておいたら身体中に菌が回ってお前は死にたくないのに死んでたかもしれない。」
「…いつ、死んだって構わない。」
「そりゃあ嘘だ!マスターはまだお前に死んでもらうつもりはないだろう。」
「……。」
「…痛みを忘れたら、楽だろうよ。任務を遂行する上でも、便利なことだらけだ。だけど、捨てちゃいけねえ。感覚がなくなったら、お前、ある日突然死ぬぞ。」
「…そう。」
「…ま、そうならないように俺たちも見てるんだけどな。って、俺たちが見てなくてもマスターが見てるだろうけどよ。」
ニカっと笑って、禍后は私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
___喜怒哀楽を忘れた私と違って、乃亞と禍后は随分と人間らしい。
人を騙して生きてきた乃亞と、人を殺すときは人格が変わる禍后。
二人が一緒にいるときは、なぜだか家族ごっこのようだった。
きっと、乃亞は禍后を愛していたし、禍后も乃亞を愛していた。
幸せにはなれないけれど、2人は思い合っていたのだと思う。
……そんな2人にも、別れはきた。