華〜ハナ〜Ⅲ【完結】
その話から数日後。
私は禍后を殺した。
禍后が守ろうとした、女も。
乃亞から禍后を奪い、禍后の気を狂わせた女は、とても綺麗な人だった。
禍后はその人に自分の全てを話していて、2人で私に殺されるのを受け入れていた。
「…貴女には、後悔はないの?」
禍后を受け入れるなんて。
ただの、人間のくせに。
光を失わない強い目で見上げてくる彼女を見下ろしながら。
気まぐれで聞いた質問だった。
「…何も知らない、可愛い子がいる。その子を捨てて、ゴウさんと死ぬことを選んだのよ。
この人を放って置けなかったの。
あの子はきっと、わたしに裏切られたことを恨んでる。最後まで優しくできなかったことを、後悔しているわ。
……だけど、わたしはゴウさんを選んで良かったと思ってる。」
禍后のことをゴウさん、と呼ぶ、その真っ直ぐな視線が、わたしには怖かった。
一人の人を信じて、その人のために命を捧げる。それは私の思っていることと同じはずなのに、その人は何故だかとても綺麗だった。
「…さようなら。」
様々な感情が沸き起こってくる前に、静かに静かに二人の命を奪った。
…それから、その女の強さは私の中で印象深く残っていた。
あの人のような、所作。
表情の作り方。
話し方に、笑い方。
必要な時はその人を思い出していた。
いつしか自然と身について、そのすべては“栗栖侑希”であるときにも表れていたに違いない。