華〜ハナ〜Ⅲ【完結】
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「……戻り、ました。」
暗い暗い、塔の中。
最奥に、ただ2人しか入れない部屋がある。
ずっと逢瀬に使われることなく閉ざされたままだった部屋。
全てを取り戻した少女は、何故だか迷わずその部屋に向かった。
「……っ、」
その部屋にいるのは。
少女が何よりも愛した最愛の人だ。
「……おかえり、華…」
「……っ!!」
華はその人の胸へ飛び込む。
羽のように軽やかに。
重力などないように。
そしてその人もまた、壊れそうなものを大事に、丁寧に扱うように。
けれど力強く受け止め、抱きしめた。
「おかえり、おかえり…。」
最初に愛した姿に戻った少女を、抱き締める。
少女もまた、全身の全ての力をかけてその人を抱き締めていた。
___離れたくない。
二人の想いは、同じだ。
声もあげず、音も立てず。
2人は涙を流しながら何時間もそのままだった。
……2人には、幸せなど必要ない。
全てを捨てることは、最初に命を奪った時に受け入れたのだ。
そんな、2人でも。
そのひと時を幸せ以外の何者でもない、と思った。