華〜ハナ〜Ⅲ【完結】
「素敵な色だね。」
「…そんなことを言うのは、貴方だけね。」
「ずっと見たかった。華の色だ……」
彼の目がとろけそうなほど柔らかくなる。
こんな表情を知っているのは、わたしだけでいい。
何もない、鉄に囲まれただけの部屋にラグを敷いて、黒いその毛の中に2人で並んで身を預けている。
お互いの呼吸と、お互いの心臓の音しか聞こえない世界は酷く暖かくて、涙が出そうだ。
「…何もかもを、思い出したの?」
「ええ。それに、蓮士と結都の記憶も、見たわ。」
「……2人のも?」
ほんの少しだけ、驚いたようだ。
「貴方、自分が何をしたのかまだ理解できてないのね。」
記憶の操作を知った彼が、死ぬ予定のない人間の記憶を操作したのはわたしたちが初めてだった。
最初は蓮士で、そして結都、わたし。
「まだ慣れてなかった力を使ってしまったからね。」
でも、どうして混ざったんだろう…と呟いたが、その声はもうすでに興味を失っていた。
「僕は、華がいればなんでもいい。」
「わたしもよ。」
世界には、わたしたちだけがいればいい。
わたしの世界は彼で、彼の世界はわたしだ。
他の誰も、いらない。
ああ、このまま2人で死んでしまえたらそれ以上の幸せはない。
どちらともなく、わたしたちは強く抱きしめあった。