華〜ハナ〜Ⅲ【完結】
「…総長。」
どこからか、声が聞こえてきた。頭を下げている蓮士には、誰がその声を上げたのかは分からなかった。
「俺は、ふがいないなんて思いません。…頭、あげてくださいよ、」
そういったのは、弘夜だった。
「侑希さんとの間に何があったのかなんて知ら無いっスけど、俺、総長のことならいいとこいっぱい知ってるっス!全然!ダメな人間なんかじゃねえ!!!」
その言葉は、真摯に、まっすぐに発せられた。
弘夜の言葉を皮切りに、別のメンバーからも声があがる。そのどれもが、蓮士をはじめとする幹部に信頼を寄せるものだった。
「お前ら……」
我慢できなかったのであろう雫が、蓮士の頬を伝った。
それは、いつでも集団の先頭を走ってきた蓮士が見せる、初めての涙だった。
それに、桜華の皆は息を呑む。
「……、」
全員に向けていた顔を背け、蓮士はその表情を悟られまいとした。
純粋に、信頼を寄せられていたことが嬉しかったのだ。
幼いころに、信じるものを失った蓮士には、心から信頼を寄せる場所も、己を信じてくれるものもなかった。だが、気付いてみれば。こんなにも近くにそれはあったのだ。蓮士が、自ら築きあげてきた場所だ。その事実に、涙があふれていた。
「蓮士、良かったね。」
ここにいる誰よりも蓮士と同じ時間を共にし、誰よりも蓮士の孤独を知っていた楓は小さくそう言う。蓮士はその言葉に小さく頷いた。
それからしばらく、桜華の広間はしんみりとした空気に包まれていた。
そしてそれを破った音はやはり、蓮士の言葉だった。
「…ありがとう。俺、お前らのことが大事でしょうがねえよ。」
涙の伝っていたそこに、今度は笑みを浮かべて蓮士は言った。
いつも無表情だった蓮士の、貴重な笑顔に桜華のメンバーは目を丸くし、次の瞬間には照れたように笑い始めた。
不意に蓮士は、とんとんと階段を下りていく。
全員の顔は見たし、伝えなければいけないことは伝えた。だが、伝えたいことはまだまだある。そのためには、上から話しているのでは足りないと思ったのだ。そんな蓮士に続いて嘉、楓、李玖、結都も階段を下りていく。
大勢の中に下りた蓮士はメンバーと近い距離で、一人一人と話し始めた。