華〜ハナ〜Ⅲ【完結】
まず最初に感じたのは、異臭。肉が腐り、乾いた匂いだ。血の匂いは外ほどは感じない。とうの昔に乾ききったのだろう。
床や壁には黒が散っている。あれが血だろう。華が手を触れてみても、なにもついてはこない。
「もう乾いてるよ」
「そうみたい、」
次に目に入るのは、白。
乾いた肉がついたそれは…
「骨…」
男は親族のそれを、嫌そうに眺めていた。華はそれには構わずその側に膝をつく。
「マスターを生んだ人ね…」
なぜ、一目で母親がわかるのか。華が膝をついたそこは、間違いなく暁斗の母親が死んだ場所だ。
「…触れないで。」
それは、小さく、震えていた。
「お願い、そんなものに触れないで…」
華が振り返ると、声とは違って強い目をした男がいた。
「……わかった」
ひしひしと、男が言葉にしない感情を華は感じている。
「…わたしを独占しているのは、貴方よ。」
この最期の時に、男は華を独占したいのだ。
その華が、骨になった母親に構っているのを男は耐えられなかった。
華は、ほころぶように愛に満ちた笑顔を見せた。
「…ここに決めたわ。」
男の手を握ってから、その場に体を横たえた。