華〜ハナ〜Ⅲ【完結】
――昔。禍后は優しい人だった。
――優し過ぎる人だった。
「月華、怪我してんぞ?」
「直ぐに治る。」
「って、2週間も前に言ってたよな。」
――よく私の世話をしてくれた。
「ほら、消毒液だ。」
「さんきゅ、乃亞。」
――乃亞と一緒に。
何日も放置していた傷は化膿してどんどん悪化した。
だけど痛みはない。
そんな感覚はどこかに忘れてきたみたいだ。
「痛みはな、お前を守るためにあるんだ。」
「守る?」
「痛いと思わなかったら、お前、こうして放置するだろ?それじゃ体がもたねぇよ。」
「もってる。」
いたって健康。
痛みを感じないほうが仕事に支障が出なくてすむ。