乱華Ⅰ【完】
「あ、」
司が声を出した事により、開きかけた口を閉じる。
ここに何をしに来たわけ?
その言葉を司に掛けることはなかった。
ヴォン
バイクの音が私達のいる倉庫にだんだんと、近づいてきていたから。
「……あ」
司が走って入り口の方に駆け出したと同時。
後ろから肩を引っ張られてバランスを崩す。
フラッと後ろに傾いた身体はそのままポスン、誰かへとぶつかった。
「あ、わりぃ」
振り返り見上げれば、それは今まで姿のなかったタクで、その言葉はさほど悪かったと思っている様には感じられなかった。
若干のイラつきを覚えたがそこはとりあえず無視しておいた。
そしてタクの隣には数分前に倉庫に消えた修の姿もあった。
「ごめんね、心ちゃん」
呆れ顔でそう言ったのは厳ついバイクに乗って現れた正宗で、同じ様なバイクに跨ったままの颯人には、走り寄って行っていた司が何かを言っていた。
「…いや…」
謝った正宗だけれど、謝罪の意味もわからないし、何故ここにいるのかもまだ理解していない私は、タクにもたれ掛かったまま首を傾げた。