乱華Ⅰ【完】
「おかえり」
運転席に座りハンドルに両肘をついたまま、ルームミラー越しにニカリ笑った梶さんに、言葉が詰まる。
その言葉を言われたのはいつぶりだろうか。
帰りを歓迎する言葉。
梶さんが言った事に特に意味がないとしても、私には意味のある言葉で。
言って欲しかった言葉を言われた事で、少なからず動揺する自分がいた。
私の隣に腰を降ろす黒髪金メッシュが、ジと見ているのがわかる。
その視線は厳しいものなんかじゃなくて、穏やかだったから…
目を下に向け、スカートと膝の間に目線を落としたまま
「…………た、だ…いま」
ポツリ、呟いた。
…なんか、泣きそうだ。
私の目線の先には赤のチェックと、自分の膝が映るだけ。
みんながどんな顔してるか、なんてわからない。
ポン、頭に大きな手の感触がある。
「じゃぁ行きますか」
クスリ、小さな笑みを漏らした梶さんの声が…
「心ちゃん、顔あげて」
正宗の声が穏やかだから…
颯人がいつもの様に私の頭を撫でるから、心がジワリ熱くなって…
なんだか
本当に、泣きそうになった。