乱華Ⅰ【完】
夜も夜の真夜中。
私と正宗が歩く場所に月明かりで照らされた影が2つ伸びる。
流石に制服姿の私は寒くなり、肩を寄せ腕を擦る。
「…寒い?」
「少し…」
と、言うかアンタらは寒くないのか。逆に問いたい。
特効服にサラシだけの状態。
こんなに寒いのに、正宗の肌は惜しげもなく曝されている。
にも拘わらず、正宗はその特攻服を脱ぎ捨て私の肩に掛けた。
爽やかな香りが鼻を掠める。
突きつける様な寒さから守られて、暖かくなる。
「ありがと…」
「どういたしまして。さっき笑ったから暑いんだよ」
まだ可笑しいのか、ははっ…笑みを零す正宗。
さっき笑ったっていうのは、まさか車の中での事だろうか…?
確かに笑っていた。
豪快に。梶さんの暴走車に乗り、ゲラゲラ笑う正宗を頭オカシイんじゃないかと疑ったくらいに。
「…なんで笑ってたの、さっき」
「…ん?心ちゃんのせいだよ」
…私のせい?
私はあの暴走車の中で何かおかしな事をしただろうか?
考えても答えなんて出るはずもない。
だってそんなおかしな事なんて、していない。
首を傾げて正宗を見る。
彼は口角を持ち上げ、心底面白そうな表情を浮かべた。
「顔」
「か、顔?」
「うん。顔だね」