乱華Ⅰ【完】
「姉…」
ぽつり、薄暗い部屋に私の声が木霊して消える。
目の前のタクは私から腕を離し「もういねぇけどな」素っ気なく呟く。
「…え、」
いない…
その言葉の意味を私はわからない程馬鹿じゃない。
「梨桜は、3年前に…」
「…」
「…代わりなんて思ってねぇよ。誰も」
思うわけがないだろ。と付け足して、ソファーから立ちあがったタクは、この話しはもう終わりだと言わんばかり。
…私は一体何をやってるんだろう。
確かに顔色を窺うのはもうやめた。
…だけどタクにこんな顔させて、こんな事言わせて、私が梨桜さんの代わり?
勘違いもいいところでしょ。
私はただ、あの場所から逃げだしただけじゃない。
私―…
「…心、勘違いしてんじゃねぇぞ」
一瞬あの闇に囚われそうになった私を現実に引き戻したのは、ソファーに座ったままの私に違和感を覚えたタク。
背中を見せていたタクはこちらに向き直って、私の前にきて
私の視線に合わせるように、腰を屈めるからバッチリと視線が絡み合う。
それが嫌で私は目を逸らそうとするけど「こっち見ろ」って言われれば、見るしかない。
「梨桜の代わりは誰にもできねぇよ。お前の代わりを誰もできないように、な」
その声と、態度は先程までの弱いものではなくなっていて、口角をおもいっきりあげたタクはニッと笑顔を見せた。