乱華Ⅰ【完】
どれくらいそうしていたか。
校内を当てもなく歩き回って、ひと気のない体育館倉庫前に差し掛かった時
「佐伯さん」
後ろから呼び止められ…やっぱり、と心の中で呟き、振り返って目の前の人物を見据える。
それは、以前も見た記憶のある赤茶色の髪の女。
左右に4人引き連れてるのを見る所、こいつらもこの前の奴らなんだろう。
「なに」
一切の感情を込めずに言葉を切り返す私を見て、彼女たちの綺麗に化粧が施された顔が形容しがたいものに歪んでいく。
「…警告、したはずよ?」
眉間にしわを寄せてさも不服といった具合に高圧的に言い放つ彼女。
だけどもう、大丈夫。
この前みたいになったりはしない。
揺るがない。
私はタクに心強い言葉をもらったから。
「警告ってこれの事?…それともこの前の事?」
ポケットに忍ばせていた紙切れを彼女たちの前にひらひらと掲げて腕を組む。
それは昨日ぶつかった時に押し付けられた紙切れ。
走り書きで“私達は認めない!どんな手を使ってでも乱華から引き離す”と書かれていた。