乱華Ⅰ【完】
その後も梶さんはどうするべきか悩んでいるみたいだった。
だけどそんな梶さんを無視して車に乗り込んだ私を見て、観念したように溜息を吐いた。
「…本当、俺殺されるわ」
頭をガシガシと掻く梶さんに誰に?とは聞かなかった。
そんな事にはならないだろうと思うけど、それに近い事をするのは…多分正宗だろう。
あのわけのわからない上下関係を見てもそんな感じがした。
だけどそんな事私がさせないし、これは私が無理矢理した事。
「…大丈夫だよ」
「…だといーけどよ」
梶さんは悪くない。
はっと力なく漏らした梶さんはアクセルのペダルを強めに踏んだ。
いつも以上にスピードを出した黒塗りの車は、びゅんびゅんと他の車を追い越しながら国道を走り抜ける。
…いつもみたいに「スピードだし過ぎなんだよハゲ!」なんて言うハズもなく、流れる街の風景を瞳に流しながら、あのいつかのマンションでタクが私にくれた言葉を心の中で思い出していた。