乱華Ⅰ【完】
「…誰でもいいだろ」
「つれないなぁ…っと何?」
「それ以上そっちに行くな」
コツ…と響いた足音がすぐに止まったのは、颯人がその男を引き止めたからだと思う。
まだ男の顔すら見てないけどなんか嫌だ。
この男は生理的に受けつけない、と思った。
廊下からはまだ怒声やら何やら聞こえていて、廊下とは対照的にシンとしたこの部屋。
廊下の外には梶さんがいるはず。瞬も乱華のみんなも。
無事なんだろうか?怪我してたりしないよね…?と心配するけどこの騒がしさからいくと、無事では無いような気がしてならない。
「…まぁいいや。とりあえずその子コッチに寄越しなよ?」
タクの背中に隠れたまま思考を巡らす私に届いた声は、子供が新しいおもちゃを見つけた様な楽しそうなものだった。
「…あ?」
「ソレ佐伯心でしょ。バレバレだよ」
クスリ、楽しそうな笑みを漏らした男にイラっとした。
…ソレなんてモノみたいに言うのやめてくれない。