乱華Ⅰ【完】
もうバレてるんだし、と若干開き直った私はチッと舌打ちをしたタクの背中から、コッソリその男を盗み見た。
男は颯人達に囲まれているにも関わらず、口元に笑みを携えていて余裕そうで。
自然な黒髪に人懐っこそうな顔だけど、その笑顔が不自然で酷く不気味に見えた。
背は司より少し高い…170くらいと思う。颯人達より背は低いけど、負けず劣らずの堂々とした態度。
無遠慮に見ていたのに気付いたのか、不意にバチっと目が合い慌ててタクの背中に隠れる。
「ねぇ知ってる?籠の中の鳥は籠の中にいるから幸せなんだって」
そしてやけに弾んだ声でそんな事を言う。
タクは「おい」と私を窘めた後再び男に鋭い視線を向けた。
何をしようとしているのかと、注意深くその言葉に耳を傾けている。
「籠から逃げ出したら連れ戻されるんだってわかってるのかな?」
「…お前何言ってやがる」
誰に向けてでもなく独り言の様に呟きふふっと笑う男に、一切間延びしていない修が訝しげに問いかけた。
「さぁ、ね。ま、すぐ探し出されるよ。…ねぇ、ココロチャン」
「っ…」
朗らかに笑みを零す男の言葉に、タクの背中で震えた。
コイツ…
知ってる。