乱華Ⅰ【完】
「本当、仲間意識すらないんだね」
いつもの口調なんだけど、最早全く笑っていない正宗の表情がとても怖い。
「仲間意識?あるわけないじゃん。そんなもん。あんなのただの駒に過ぎないからねぇ」
…カスだと思った。
くつくつと笑いながら、人を人だとも思わない言葉をすらすらと言うこの男を。
こいつらが悪い奴らだとしても、それでもこいつらを信じてついてきた人に対して、よくそんな事言えたなと。
「どんな連中にしろ自分の下にいる奴らを駒とか言うなよ!」
「…何?都築司が俺に説教すんの?そんな偉いのかよオマエは!」
拳を握って声を荒げる司に冷笑を向け、僅かに声を低くした河野はザッと半歩前に出て片足を大きく振り上げた。
…回し蹴りするつもりだ。
それが司もわかったのか身構えたけど、その足が振り下ろされる事はなかった。
なぜなら遠くからある音が聞こえてきたから。
…それは聞き間違えるはずのない音で。
確実にこちらに近づいてくるソレに河野と本間は舌打ちをした。
「…邪魔が入ったみたいだな」
「サツ呼ぶなんてふざけてるよね。…でも、これで終わると思わないでよね。絶対逃がさないから」
一気に興味を無くしたかのような本間省吾と、残虐な笑みを見せてこの部屋を後にした河野。
ピリピリとした空気は緩んだが、河野の放ったその一言が私の頭から離れなかった。