乱華Ⅰ【完】
絶対に逃がさないって?
私を捕まえて何するつもりよ?
「おい」
私に“利用価値”なんてないんだから。
何に利用するにしても価値なんてないんだから。
…そんなの自分が1番知ってる事。
「…おい、心」
探すとか、捕まえるとか、逃げるとか、私にとってそれは何の意味があるの?
今更期待するつもりなんてないんだから。
よく知らない…あんな男に私は心を簡単に乱された。
それがとても悔しくて、とても腹立たしい。
「っおいっ!心、聞いてんのか!?さっさと行くぞ!」
気付けばタクが私の肩に手を当てて、すごい勢いで揺すっていた。
その目には心配の色が滲んでいて、タクに「うん。聞いてるし」分かり切った嘘を返す。
……今はこんな事考えてる場合じゃない。
颯人と正宗も入口付近でこちらを振り返り待っている様子で…タクに手を引っ張られながら近づくと
「ゴメンね?心ちゃんがここに来た時点で最悪の事考えて、いざって時の為に蓮にサツ呼ぶように指示してたんだ」
ニコリ、冷笑を携えた正宗に言われた。
全く笑ってない目は冷ややかに怒っていて…
「っ…ご、めん」
「…まぁそれは後で、ね」
「さっさと行くぞ」
もうすぐそこまで近づいているサイレンを耳に捉えながらも、とりあえずはこの空気の悪い部屋を後にした。