乱華Ⅰ【完】
それまで黙っていた颯人がいきなり私の顔を上げさせて、口元に手を持ってきた。
え、何?
意味がわからなくて颯人を見上げれば、あの射る様な漆黒の瞳は和らいでいて
「唇、噛むな」
そっとそこに触れた。
そこで気づいた。自分が唇を噛みしめていたことに。
「あ、ごめん…」
噛むのをやめたのを見て颯人は口を開く。
「…原因はハッキリしてねぇがお前はあいつらに狙われてる」
「…うん」
「あいつらは何考えてるかわかんねぇ上に危ねぇ奴らだ。だからこそ、あいつらにお前が渡る様な事にはしたくねぇんだよ」
わかるか?と諭すように言う颯人には頷くしかできない。
「正宗だけじゃねぇ。俺も乱華のメンバーもみんなお前が心配なんだよ」
「…ん」
なんでこんなに優しいんだろう。
私…迷惑しかかけてないのに。
いつだってそう。
私は迷惑をかける存在でしかない。
ここでもそうだし、ここに来る前も…そう、だった。
だから、アイツの言う“連れ戻される”なんて絶対にない事。
期待なんてするな。
あんなよく知りもしない奴の戯言にいちいち心を動かされるな。