乱華Ⅰ【完】
「…なら別に迎えなんて来なくても、こんな朝早くからその陽炎とかも来ないでしょ…」
「心ちゃん。陽炎は朝が早いとか、一般人だから、とか関係ないんだよ。非情な奴らだからね」
こちらに振り返る事もなく、言った正宗の声はどことなく低く聞こえた。
「お前がどんだけ命知らずかは、知んねーけどなぁ…そんな甘くねぇんだよ。大人しく守られとけや」
タクはそれ以上は何も言うつもりがないのか、私が見た時には既に目を閉じていた。
「学校だからって油断はすんなよ」
右からいきなり声を掛けられて、肩が大げさにビクついてしまう。
私の頭を一なでした颯人は、窓に視線を向けたまま呟いていた。
…アンタも同じ学校なんだね。
濃紺のブレザーにグレーのズボンという制服に身を包む颯人は、まぁ制服姿はあまり似合ってはいなかった。
学生だとか、大人だ、とかではなくて、颯人は颯人って感じだったから。
それにしても、陽炎と乱華…か。
昨日までとは全くの別世界に、少し足を踏み入れた私は、少なからずワクワクしていたのかもしれない。
学校に着くまで誰一人として、口を開く事はなく、私はただ無情に流れる景色をぼーっと眺めているだけだった。