乱華Ⅰ【完】
そんな周囲の声に反応する事なく辿り着いた場所。
「ここだよ」
正宗の声で視線を上にあげれば
居酒屋ゲンと木彫りで作られた看板が入口の上に、でかでかと掲げられていた。
引き戸を引いて「どうぞ」中に促す正宗をよそに、ぼけっとその看板を見ていた私は、修とタクに半ば強引に押し込む形で背中を押される。
お陰で足がもつれて、バランスを崩した私はポスン、誰かにぶつかってしまった。
「…すいませ「おーお前ら、開店前だっつーのにまた来たか」」
頭上から落ちてきた声。
そろそろとその声の主を確認すべく、顔を上げればバッチリと合う視線。
「これが噂の“姫”かぁ〜可愛いな」
ニヤリと顎髭を触りながら、私の背中に片腕を回してハグした彼。
…多分20代後半くらいの彼は、年甲斐もなく髪が金色だった。
「……」
離して欲しいと思う。
無言でジッと見上げれば彼は「…勘弁してよ」と言いながら解放してくれた。