乱華Ⅰ【完】
ご飯を食べ終え、お店を出るとき「あぁ、そうだ」思い出した様に言った和真さんに、皆足を止めた。
「最近T県が勢力伸ばしてるらしいな」
顎髭を触りながら呟いた和真さんは、ジッと正宗を見ていた。
T県
その言葉に一瞬身体が反応をしてしまう。
たったそれだけで、頭を支配する言葉たち。
『お前は、出てくるな』
『触るな』
『近寄るな』
『話かけるな』
冷たい目。
冷たい手。
最後に触れたのはいつ?
「あぁ。こっちにまで来たら俺達が歓迎してやりますよ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべた正宗の言葉で、頭の中の言葉は一瞬にして打ち消した。
…なんで。
思い、出すの。
会話をする正宗達より先に、お店の外に出た。
昼間とは打って変わって、肌寒い空気が身体を包んで思わず身を竦めた。