女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
あいつの魂胆がまだ判らない。うーん・・・何かやつの友達とか、もし周りが動いてて面倒臭いことになるようだったら、私はさっさと百貨店から逃げた方がいいのかもしれない、かも。
でもこれから繁忙期だしな~・・・雇ってくれた上に保険までつけてくれたこの会社を見捨てるのはちょっと出来ない。
夏場の百貨店は戦場だと聞いている。あの人の良い店長を見捨てる気にはどうしてもならなかった。
私は一人で肩をすくめる。
もういいや、とにかく無視しよう。今どうこう考えたってどうしようもないんだし。それよりもこの眠気をどうにかしないと・・・。
レジを打とうとするとすぐ前にマーケットが見渡せる。つい無意識に鮮魚売り場に目をこらして長身の影を探していた。
・・・聞いてなかったけど、今日は桑谷さん出勤じゃないのかな。
あの人、いくつなんだろう。
昨日はすぐ帰るつもりだったし、興味も関心もなかったから年齢や名前も聞いていない。そういえば私も名乗ってない。あっちも私の年齢も知らないはずだ。
お互いに職場と苗字しか知らない。
なのに体で結びつくことは出来るのだ。大人って、便利なようで不便・・・。なんか、文字通り不純だわ、と思って小さく苦笑する。
彼のプライバシーは殆ど何も知らないと言っていいほどなのに、体の隅々はもう知ってしまっているのだ。引き締まった太ももから足も、少し毛の生えたおへそ周りも、背中からわき腹にかけてほくろが3つ連続であるのも。