女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
きゃー、私ったら。寝不足でぼーっとした頭を手のひらでパシッと叩いた。
次に顔を合せるとき、どんな顔をするだろう。私はどう反応するんだろう。
ぼーっと鮮魚売り場を眺めていたら、すみません、と小さな声が聞こえた。
私は急いで笑顔を貼り付けて振り返る。
「いらっしゃいませ―――――」
お待たせしました、と言いかけて、言葉が止まってしまった。
カウンターの隅に遠慮深げに立っているのは、何と小林部長の娘さんだった。
胸元につけている百貨店側の社員さんが使用している名札にも、小林と文字が見える。
「はい?」
買い物に来たのなら堂々とカウンターの前に立つだろうから、何か私用で来たのかと、私もカウンターの前に回る。
「・・・あの、急にすみません、小川さんですか?」
チラチラと『ガリフ』の方へ目線を送りながら、彼女が言った。倉庫にでも行ったのか斎の姿は見えなかった。どうやら彼から隠れているらしく、小林さんはうちの高い看板の影に隠れるように立っている。
「はい、小川ですが」
「私・・・小林といいます」
「存じてます。何か御用ですか?」
しばらく不安げな、迷っているような表情でこちらを見ていたが、時計をチラリとみて早口に言った。
「・・・あの、お話がしたいと思ってまして。休憩の時にでもお時間いただけないでしょうか?」