女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
彼女は手で肩を打つ勢いで言う。私は少しばかり距離をあけた。
「だって、過去のことですよ。現在の彼女が何を心配することがあるんですか?」
「それは聞いてみたいと判らないけど・・色々あるんじゃあないの?」
すごーく嬉しそうだ。今日は暇だし、余計に食いつきがいいのだろう。私は少し考えて、ねえねえ田中さん、と声を潜めた。
「守口さんには知られたくないようだったので、この事、秘密にしといて貰えます?」
パートのおばさまは更に目を輝かせてうんうんと頷いた。任せておいて!誰にもしゃべらないから!と。
私はよし、と心の中で頷く。これで確実に斎にもこの話が伝わるだろう。田中さんが他の人に話さないなんて絶対ない。頼むから、そこの期待は裏切らないでね、と隣の店をちらりと見た。
あの子がどれだけ本気かは知らないが、斎と結婚するのだけは本当お勧めしない。人間そう簡単に性格は変わらないし、斎は根本的に女たらしで詐欺師だ。唯一の取り柄とすれば、仕事をすることは嫌いではないってことだけ。
小林部長の娘さんは見るからに頼りなさげだ。今日話してみて見極めればいいだろうが、とにかく、私がここにいる間はやつらの恋愛は邪魔しまくろうと決めていた。
そのためにはひと悶着も二悶着もあっていいのだ。恋人が元カノを呼び出した、その事実は是非斎にも知っておいて貰いたい。
田中さんの興奮を眺めていたら、竹中さんが休憩から戻ってきた。売れてないので倉庫の品だしもないし、約束したからと休憩に行かせて貰う。
百貨店の外にいくので、名札を外してポケットに入れた。背中に田中さんの視線を感じながら売り場を後にする。