女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
駄菓子菓子。
眩暈が酷いのでと座った銀行のソファーで、頭を下にむけたまま自分の握り締めた手を見詰めていた。
あの、プラス1万が異常に堪えた。
200万ではダメだったの?どうしてその1万?全額盗るんじゃなくてそれだけにしたのは親切心から?私が溜めた201万。苦労して、少ない給料で一人暮らしをしながら溜めた201万。かかった病院代。あの男に買った色々なもの。女性としてのプライドも砕かれた、ぼろぼろの自分。失った仕事。
綺麗な顔で斜めから見下ろして笑う斎の顔が浮かんだ。そしてあの美声で、いつでもぞくぞくしたあの声で、「ありがとよ」って言う、あの野郎の言葉まで聞こえた。
・・・・・・・無理。
全部、忘れるなんて無理。
痛い社会勉強をするのは私だけじゃ不公平でしょう。
通帳を鞄にしまって立ち上がった。
ありがとうございましたーの爽やかな声を背中に聞きながら、銀行を出る。
前を向いて、横断歩道を渡り始めた。