女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 駄菓子菓子。


 眩暈が酷いのでと座った銀行のソファーで、頭を下にむけたまま自分の握り締めた手を見詰めていた。


 あの、プラス1万が異常に堪えた。

 200万ではダメだったの?どうしてその1万?全額盗るんじゃなくてそれだけにしたのは親切心から?私が溜めた201万。苦労して、少ない給料で一人暮らしをしながら溜めた201万。かかった病院代。あの男に買った色々なもの。女性としてのプライドも砕かれた、ぼろぼろの自分。失った仕事。

 綺麗な顔で斜めから見下ろして笑う斎の顔が浮かんだ。そしてあの美声で、いつでもぞくぞくしたあの声で、「ありがとよ」って言う、あの野郎の言葉まで聞こえた。


 ・・・・・・・無理。


 全部、忘れるなんて無理。

 痛い社会勉強をするのは私だけじゃ不公平でしょう。

 通帳を鞄にしまって立ち上がった。

 ありがとうございましたーの爽やかな声を背中に聞きながら、銀行を出る。


 前を向いて、横断歩道を渡り始めた。



< 14 / 274 >

この作品をシェア

pagetop