女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


「・・・・二人とも、それぞれに色んな人たちとよく話してるのを見る。周囲に気を配ってるのが判った」

 ・・・本当、よく見ている、この人。特に私に注意を払っていたんだろうから判ったんだろうけど、この男はバカじゃない。

 彼は口を閉じて目も伏せた。私の説明を待っているけど、それは君のペースに任せる、というような雰囲気が漂う。

 クーラーが効いて少し冷えだしたので、タオルケットを肩まであげた。

「・・・あれ、隠しちゃうの?」

「寒いので」

「おいで」

 また抱きしめられて、目を開けたままで軽いキスをした。それは一度では収まらず、彼はわざと音を立ててキスを繰り返す。

 桑谷さんは私の唇から耳朶、鎖骨のくぼみにも順番に舌を当てる。右手が降りてきて太ももの内側に入り込んだ。

 昨日の夜を思い出して体が熱くなりかけているのが判った。彼の指と舌が生き物みたいに動く。

 だけど、今はダメでしょ。私は何とか煩悩を追い払うと、私の首筋に唇を這わせていた桑谷さんに言った。

「・・・・・守口さんには貸しがあります」

「貸し?」

 驚いたのだろう、パッと愛撫をやめて、彼が顔を上げた。

「私の貯金の200万が、アイツに盗られたので。返せと責めました」

 目を見開いた。真剣な顔になって、桑谷さんが私の体から手を離す。

「200万?盗られた?」


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