女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


「正確には、201万。私が居ない間に通帳と印鑑を持ち出して、勝手に下ろしたんです」

 そんな事とは思ってなかったらしい。驚いた表情は崩れないまま、唇に人差し指をあてて考えていた。

 そして、裸のままで寝転ぶ私を見た。

「・・・・それ、俺が払うっていったら、手を引くか?」

 私はじっと、彼を見た。そして思ったままを言う。

「・・・意味が判りません。どうして桑谷さんが払うんですか」

 彼の一重の瞳が鋭く細められた。口元もぐっと結んでいる。真剣な顔になると、男らしさが強調される人だ。

「それで君が危ない事を止めるなら、出すよ。守口は犯罪を犯したわけだろ?そんなヤツを責めるなんてどうかしてる。・・・気持ちは判るにせよ、危ない。現に君は階段から落とされたわけだし」

 それだけではないんだけど、私は心の中で呟いて、彼から視線を外した。

 起き上がってタンクトップを着て下着とショートパンツをつける。そして台所に行って冷たい水をコップに注いで一気飲みした。

「水、いりますか?」

「今は要らない」

 私は肩をひょいと竦めた。

 そして、コップをシンクに置いてから寝転んだままの桑谷さんを振り返って言った。

「・・・・お金は勿論大事。でもそれだけじゃないんです。・・・アイツは・・付き合っている間色々なことで私を苦しめた。言葉、態度・・・なのに、傷ついたのは私だけで、アイツは全然平気な顔してのうのうと生きている」

 震える手をコップで隠した。


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