女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 優しい表情は完全に消えて、獰猛な顔つきになる。私はその場で一瞬怯える。これが、さっきまで私を抱いて微笑んでいたのと同じ男?

 あの悪戯っ子のような瞳はどこに消えた?彼の雰囲気は今や一変し、その迫力に、自分の部屋に入れてしまったことを後悔するほどだった。

 ・・・この人は、恐ろしい男なのかもしれない。

「いい?」

 返事がない私に彼が重ねて聞くから、はい、と答えた。

 どのみち、これから真夏の繁忙期に入る。斎は仮にも繁盛店の店長だし、ほとんど店に出てると思って間違いない。私は私で勤務があるし、とにかく夏を乗り切らねば、と思った。

 立ち上がって服を着だした、大きな男の人を眺める。

 私は今、少しややこしいことになっているかもしれない。だけど―――――――――


 誰かと話すということ、誰かに頼るということ、それは何て心地よいのだろう・・・。


 例えそれが、よく判らない男性であったとしても。

 一人じゃない、その安心感が私を侵食していくのは早かった。


 シャワー借りていい?と言う彼の声に応えるべく、台所から出た。




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