女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
接客中、客は神なんかじゃねーよ、需要と供給の中では対等である筈だろ、と心の中で怒鳴り散らしていた。サービスというのは、あくまでも気持ちよくいてもらう為の付加努力であって、受ける側が当然のように要求するものではないだろう。
くそう、あのババア!と胸の中で毒つきながらも、売り場に立つ販売員の使命として、顔には笑顔を浮かべていた。
・・・・私、こんなに口悪くなかったんだけど。これも全て斎のバカ野郎のせいに違いない。2年と5ヶ月の影響力は強かった、と斜め前の店で極上の笑顔を駆使して接客している斎を眺める。
お客様は女性で、頬を染めて斎の顔を見詰めている。よくよーく見ると、あいつが包装しているのは5千円の商品ではないか!くそう、羨ましいぜ・・・。絶対、あのお客様は自分が何を買ったのかが判ってないと思う。
「・・・・凄い笑顔ですよね~。相変わらず」
竹中さんが私の後ろから斎を見ていった。そして私に聞く。
「綺麗な顔って見飽きるって本当ですか?」
え、いきなり何だ?私はそう思ったけれど、とりあえず真剣に答えることにした。
「うーん・・・。そんなことないと思うけど。でも感動は薄れていくよね、きっと。毎回、綺麗な顔だなあ、とは思うけど、別にドキドキはしなくなるというか・・・」
彼女はポン、と手を打って、ああ成る程、と頷いた。
「さっきのお客様も、守口店長相手だと可愛らしくなるんですかね~」
さっきのキチガイババアか!?思い出してまたムカついた。私はむすっとして言う。
「・・・まあ、格好いい男にはよく思われたいと思うのが普通でしょうしね。大体こういう女性ばかりの職場では、男性ってだけで力があるわよね。何か、偉いさんって感じで」
そう考えると、斎はこの職業に向いている。