女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 レジの金銭チェックのついでに鮮魚売り場の桑谷さんを探す。今日は売り場に出る日らしく、商品を並べながらよく通る声で呼び込みをしていた。

 肩幅が広くて背が高いから大きく見えるけど、どちらかと言うとすらっとしていると形容される体型だろう。防水の長いエプロンが似合う長い足。百貨店の社員用の半袖の制服から伸びた腕は休むことなく動いている。肩を越えるくらいの黒い髪をくくって板前さんのような帽子を被った彼は、やはり目だっていた。

 斜め前ではイケメンの斎が芸能人のようなキラキラオーラで目立っている。

 後ろを振り返れば桑谷さんがこれぞ男!って感じの雰囲気を出して目だっている。

 見方によっちゃ、ここは結構豪勢な売り場なんだな・・・と思った。

 正し、斜め前は悪魔で、後ろは正体不明なんだけど。


 俺が調べる、と桑谷さんが言ってから、毎日が忙しく過ぎていって話が出来ていない。

 こちらが休みだったらあっちが連勤だとか、あっちが都合よくても私が疲れ過ぎてて携帯に気付かず寝てたとか。メールで状況を聞くと、メールで話せることじゃないと返事が来ていたし。

 生理前もあるんだろう、私はイライラしていた。

 今日は土曜日で3人体制なので、福田店長が戻ってきてからが私の休憩時間。運よく接客もしてなかったので、交代ですぐに食事に出た。


 店員食堂でお弁当を食べていたら、小川さん、ここいいですか?と小さな声が上から降ってきた。

「――――あ、どうぞ。空いてます」

 小林部長の娘さんがトレーを手に立っていた。


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