女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
「――――――し・・・信用さ――――」
思わず大声になりかけた私を、桑谷さんは手の平を見せるジェスチャーで止める。
空咳をしてから小声に直して、改めて聞いた。
「・・・信用詐欺、ですか?」
前の席に座る彼は声に出さずにただ頷いた。
以前来た創作居酒屋で、今日はカウンターではなく半個室化した座敷で飲んでいた。
遅くなるはずが実際には私より先にきていた桑谷さんは、注文した料理を私があらかた片付けたところで、おもむろに話しだしたのだ。
「守口は、架空の儲け話を考えて、うちの社員達に投資をもちかけてるんだ」
半個室とはいえ、ここは百貨店に一番近い飲み屋である。一応の確認はしていて顔見知りは見当たらないが、念には念をと、桑谷さんの声はほとんど囁きに近かった。
聞こえないのでつい上半身を乗り出すことになる。
「儲け話・・・」
「そう。それが架空だってのは、君がお金を受け取ってるのを知ってるから俺は言えることで、もしかしたら本当の話かもしれないけど、少なくとも投資にまわすつもりで社員がヤツに渡した金は、そっくり君に返しているみたいだな」
金額がぴったり合うんだ、と桑谷さんは言った。
私は座りなおして頷く。
・・・それでピン札だったのだ、と合点がいった。一度斎の口座に振り込まれたものを降ろして持ってきたのだと。