女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
ビールのジョッキをテーブルに置いて、桑谷さんは盛大なため息をついた。
「・・・小林部長の名前も出しているらしい。近いうちに部長の親戚になるんだから、大丈夫だと。投資にもし失敗しても金は返せると言っているんだろう」
うんざりして、私は思わずうなり声をあげる。
・・・・あのバカ、本当に、なんてバカなの。そんないずれはバレる嘘を重ねて。
呆れた。よくもそんな話をだしてきたものだ。これで自分の懐は痛まずうるさい私の金は返せる。もし小林家に入ることが出来なくても、逃げれば済む話だと考えたのだろう。
小賢しい割には詰めが甘いんだよ、斎君。小林部長の名前を出してしまう辺りに、焦りがすごく見えるではないの。
ただし問題なのは、私にはそれが判るけれど、百貨店の社員さん達にはそれが判っていないってことだった。
あーあ・・・。私はお箸を放り出して桑谷さんを見る。
「どうやって聞き出したんですか?」
彼は淡々と説明した。
「君が集めた情報の中にいた、子供服売り場の社員は俺の同期だ。春の人事で移動になって、今、子供服の男性社員は少ないから、金がかかる話が動くとしたらアイツくらいしか居ないと思った。それでこの間飲みに行って、守口が小林部長の娘と本当に結婚するのかどうかの話を俺から振ったんだ」
私は無意識に下唇を噛んだ。
―――――――――スマートだ。しかも、素早い。