女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 私は面倒臭くなって、ビールを飲み干した。

「・・・じゃあ、今日の分合せて80万は貰っとこうかな。それでもうお金はいいや。こういうことって警察に言うべきなんですかね。匿名で電話とか?」

 うううーん・・・と二人で悩む。

「君や同期の話と現金で頑張れば説明は出来るだろうけど・・・ややこしくなる上に周りへの影響がでかすぎる。その話が架空であるという証拠もないしな・・・」

 確かに。警察は事件が起こってからでないと動いてはくれないし、それにこれから繁忙期も本番になる百貨店は大混乱だろう。斎はメーカーの社員だが、話に乗っているのは百貨店の社員だ。小林部長の名前もでているし、まさしくスキャンダル。大体今の段階で警察に言って、どれほどの事をしてくれるものなんだろう・・・。


「・・・あー・・煮詰まった。申し訳ない、タバコ吸ってもいい?」

 桑谷さんが聞くので、どうぞと灰皿を取った。

「・・・タバコ、吸うんですね」

「凄く疲れたり、酒飲みすぎたりした時にはやっぱり欲しくなるね。毎日吸うのは止めれたんだけど、たまの一本が止められない。―――――喫煙者は嫌い?」

 鞄からボックスとジッポライターを出して、ちらりと私を見る。私はいえいえと首を振った。

「歩きタバコやマナー違反は嫌いですが、喫煙そのものは嫌いではないですよ。私も昔は吸ってましたし」

 彼は、へえ?と眉を上げた。

 口の端にくわえて火をつけライターを閉じる。その無駄のない流れるような動きが、以前はヘビースモーカーだったのかなと思わせた。

 全部にかかる時間がとても短く、洗練されていて、決まっている。習慣になっていないと出来ないような一連の動作。


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