女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 彼は吐く紫煙に目を細めて、煙の間から私を見詰めた。

「・・・吸ったんだ?意外だな。知れば知るほど、色んな顔が出てくるね、君は」

 私は少し微笑んだ。

「それはお互い様でしょう。桑谷さんのことも、私は何も知りませんよ。この前やっと年上だって判ったところです」

 私の答えににっこりして、リラックスしたかのように姿勢を崩す。

「何が知りたい?何でも聞いてくれ」

「え、何ですかいきなり?」

「俺に興味持ってくれるのが嬉しくてさ」

 ケラケラと機嫌が良さそうにそういうから、私はつ、と指で彼の髪を指した。

「――――――――どうして髪を伸ばしているんですか?」

 彼が一瞬、ん?と止まった。そんな質問は予想してないみたいだった。人差し指と中指でタバコを挟んで持ち、天井を見上げていた。

 ゆっくりと煙を吐き出して、照明にキラキラ光るのを眺めている。やがてぼそっと低い声で呟いた。

「・・・・切るのが面倒臭かったから、ってことで」

 ってことで?

 私は右手で素早く箸置きを彼に投げつけた。

「本当の理由を教えてくれないなら、何でも聞いてなんて言わないで下さい」


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