女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 それなりに素早く投げたのに、箸置きはあっさりと右手一つで受け止められてしまった。しかも、くわえタバコのままで。・・・くそ。

 困ったような微笑で桑谷さんは言う。

「・・・・賢い女性は嫌いじゃない」

 試されているような、宥めすかすようなその言葉にカチンときた。

「私はバカですから、どうぞ嫌って下さい」

「あらら・・・女神を不機嫌にさせちまったか」

 桑谷さんはそう言って痛そうな顔をする。

 ふん、と下品に鼻を鳴らしておいて、私は勢いよく呼び出しボタンを押し、ビールのお代わりを頼んだ。

「――――――ま、とりあえず」

「はい?」

 短くなったタバコを灰皿に押し付けて、桑谷さんが言った。

「百貨店の社員には、守口と小林さんの不仲説を流してみるよ。他のやつらが話しにのらないように牽制しよう。同期にも同じように言う。調べたけど、そんな投資の話は眉唾じゃあないか、とも。金を返せと言わせてみると、次にアイツがどう出るかが見れる」

「・・・・なるほど」

 おおお~。声には賞賛は出さず表情も変えないままで、私は指先だけで拍手をした。

 桑谷さんは情けない顔をして、小さな声で言った。頼むよ、と。

「笑ってくれないか?」

 私は無表情のまま彼を見る。そして舌をぐいっと突き出して、親指を下へ向けてやった。


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